特別企画

春の野草(愛知・永昌寺)

春の野草 山野草が元気になる時期になると、心が弾む。冬の寒さに背をかがめていた草が、一転して背筋を伸ばしてグングン大きくなる。その生命のエネルギーを存分に味わうことが出来るのが、この季節からだ。そんな期待を抱きながら、愛知の永昌寺に向かった’。


伊勢湾に突き出た知多半島を電車で一路南進。終着駅から車で10分、みかん畑やいちご畑に囲まれた丘陵地に着く。温暖な土地柄で、海も目と鼻の先だ。
「こういう所は、野草もいいものがあるのだろうなあ」といった思いを胸に寺を訪れる人は運がいい。膳の上に、せりや菜の花をはじめ、たらの芽・みつばなど、豊富な山野草が勢揃いするからだ。

「せりの木の芽味噌和え」「菜の花のごまあえ」「みつば・きくらげ・大根おろしの酢の物」「たらの芽のてんぷら」などなど。菜の花やせりは、ゆで具合が命。熱湯にサッと通してすぐに上げなければ、歯ごたえと独特の苦みが消えてしまう。上げた後は冷水に浸して色鮮やかにする。ビタミンや、カルシウム、カリウムなどの無機質が豊富なことで知られる山野草だ。

永昌寺 「現代人はカルシウムが不足がち、これがいらいらの元凶。寺で座禅を組んだ後、ビタミンや無機質を補給する。心も体も平穏になる」という図式。ごま豆腐は本山・永平寺仕込み。箸でつまんだ時のしなやかさと、サックリとした歯切れのよさはさすが。片山健城住職夫人のさよ子さんが「そうですか。私達はごま1に吉野葛0.6、水3といった割合で火にかけて練ります。これが一番の自信作なんですよ」と言うのもうなずける。

かぶら蒸しに手を伸ばして、「さてさて何が入っているのか」と見れば、雪のようなおろしかぶらの下には菜の花が。これは早春をイメージしたものかも。
「物足りないと思われる方もおられましょうし、ご希望によっては例外的に魚を入れたり、すりおろしたかぶらがふんわり仕上がるように卵白を加えたりしますが」とはさよ子さんの説明。
「かぶら蒸しと言えば、白身のさかな。でも精進に魚を使うのは……」などと考えてしまうと始まらない、柔軟な発想だ。菜の花のかぶら蒸しの方は、仕上げにかける葛あんを濃いめの味にしているようで、そのうま味が功を奏して、物足りなさなどみじんも感じられない。昧のしみたかぶらだけはもっと食べたい気分だ。菜の花やせりは、軽くゆでて刻み、炊いたご飯に混ぜても手軽で楽しい。寺の横には広さ2万坪の大フィールドアスレチック施設が広がる。ちょうど20年前に寺と観光業者が共同で始めたもので、寺としては経営から離れた今でも、座禅とフィールドアスレチックに料理を組み合わせた研修コースを続けている。

座禅という「静の世界」で精神を鍛え、アスレチックという「動の世界」で肉体を鍛える。心身ともに汗を流した後、住職の法話を聞きながら膳に臨めば、その栄養も2倍、3倍になるということなのだろう。

曹洞宗の開祖・道元禅師は『典座』(食事の支度を担当する僧)が最も大切だと教えています。生活の基本たる食事の支度は大事な修行になるのです」この言葉に、20年近くも同じメンバーで創意・工夫を繰り返してきた熱意の源泉を見る思いがした。

ページTOPへ