特別企画

舞茸料理(山形県・注連寺)

舞茸料理 山形県朝日村。出羽三山(羽黒山・月山・湯殿山)に囲まれた静かな山村に、湯殿山を山号に持つ注連寺がある。
ここは放浪作家・森敦の代表作「月山」の舞台。また、即身仏(いわゆるミイラ仏)の寺としても知られる。だからといって、即身仏になるための料理が出る訳ではないことは当然だが……。



料理の主役は「舞茸汁」。周囲の山に自生する舞茸を小分けして、だし汁で煮て豆腐も加え、最後にセリやミツバなどを入れた、薄いしょうゆ味の汁。舞茸というと天ぷらのイメージが強いが、汁にしてもその味と香り、それに独特の歯ざわりを十二分に楽しめる。煮る際に色の濃い汁が出るので、事前によく水にさらすことが欠かせない。
他のきのこ同様、繊維質に富むうえ、抗がん作用も強調される頼もしい食材だ。

この舞茸汁を中心に、かすかな酸味を損なわないよう気を配ったオオイタドリの油いため、かぽちや・しいだけ・生揚げ・こんにやくの煮しめ、きくらげの酢みそ和え、ふきの煮つけ、ごま豆腐、ところてんなどが並ぶ。

材料はほとんど寺の周りで採れたもの。春はフキノトウ、ヤマウドなどの山菜がふんだんに並び、秋にはブナの実を集めて、大豆代わりに使ったブナ豆腐を作ったりもする。
「自然の生命力を、それが最も強い時期、つまり旬に取ってすぐに食べる。一見質素な膳だが、むしろ現代ではかなりぜい沢な食事かも知れませんな」と佐藤永明住職。住職一人で調理にあたった時期もあったが、ここ十年ほど中心になっているのは渡部けさをさん。彼女は「水に恵まれています。寺の500メートルほど裏から涌き出る水を使っていますが、これが本当においしいし、水質も保健所の折り紙つき。料理の基本はよい水を使うことですから」と言う。弘法大師(空海)が開いた寺らしく、大師が三鈷(密教の法具)で掘ったという言い伝えのある清冽な水と、取って来たばかりの山の幸。これ以上体に良い物を揃えろと望む方が無理というものかも知れない。

舞茸汁も味わい深いが、個人的には、「住職のお気に入りの品ですが、食べてみて下さい。お客様には出していませんが」と出してくれたかぼちゃの和風コロッケが印象に残った。ゆでたかぼちゃの水気を切って一晩寝かせ、素材の甘さを引き立たせるため少量の塩で味を整え、一ロ大に丸めてパン粉をまぶして揚げる。
「普段も出したら、喜ばれるのでは……」こう言ってみたら、渡部さんは「そうですね。小人数の場合でしたら」とのこと。味もさることながら、洋風な華やかさを、膳にあしらったら面白いのではないかと考えるのは邪道だろうか。
数人の客が帰った後、佐藤住職が周囲に「食べ残しは何かあるかな」と一言。食事が本業の料理屋を思わせる細やかな気遣いに、料理へのこだわりがのぞく。

注連寺 本堂には、木食行(本の実や草の根などだけを食べながらの荒行)の末に即身仏になった江戸時代の僧・鉄門海上人の姿。外に視線を移せば、森敦文庫や文学碑が見える。
「冬場は雪が3メートルも積もり、周囲は白一色。昭和26年から約1年、寺で暮らした森さんは庫裡の2階に和紙で蚊帳のようなものを作り、暖をとっていたそうです」そんな説明もあった。
「一度真冬にいらっしやいませんか」住職に声をかけられた。その頃に再び訪れたいという誘惑に駆られる魅力的な寺だ。

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