特別企画

花の精進揚げ(山梨県・放光寺)

花の精進揚げ 精進料理というと「山野菜や野草の世界」と思いがち。ぶどうや桃の産地で知られる果物の里・山梨県で、そんなイメージを払拭してくれる膳に出会った。様々な花や果物がふんだんに盛り込まれた、高橋山放光寺の「季節の精進料理」には、思わず心が弾んだ。


まず口取りにころ柿の姿が。さらにイワタケのわさび和えとシイタケ寿司。険しい山の危険な岩場でしかとれず「不老長寿の秘薬」とも言われるイワタケを使うとは、命懸けの料理ではないか。キノコ風の名前だがコケの一種で、形や歯ごたえは海草風とあって、そんなありがたい代物だということに気づかないまま次の料理に進んでしまいそう。

続いて錦糸うりの辛子ごま和えや、ごま豆腐に手を伸ばす。このうりはゆでると糸状に崩れるので、正に錦糸そのものの姿。シヤキシヤキした歯ごたえが持ち昧だ。ごま豆腐は「毎朝、その日使う分だけ作ります。朝から外出する予定がある日でも、早起きしてこれだけは作っていく」という清雲俊元住職こだわりの一品で、これを口にして「そうだ、私は料理屋ではなく寺で食事をしているのだ」と、ごく当たり前のことに気がつく。
そう思ったとたんに、鮮やかな朱色が白い器に映えるノカンゾウの花の酢の物や、吸い物のたねに使われているマスカットが目に飛び込んできて、再び「寺」というより「オシヤレな店」に近い感覚に引き戻される。

花の精進揚げ これからがこの寺の本番。「汁の中にぶどうとは……」こちらが口に出さなくても、住職はそんな心の内はお見通し。すかさず「まあ召し上がって下さいよ」。その声に促され箸をつけると、薄昧のすまし汁にぶどうの甘酸っぱさがよく合うのに驚かされた。いちじくの甘露煮も、持ち昧を生かしたあっさり仕上げ。

精進揚げの主役は花。春には椿の赤・山吹の黄金色、初夏の菖蒲の淡い紫、夏の桔梗の上品な紫、秋には花の代わりに稲穂や色鮮やかな紅葉、そして冬は淡い紅のさざんかと、うつろう季節を巧みに演出する。花以外にも、ハッカやごまの葉、食用菊の葉、ゲンノショウコ、ギンナンなど素材は豊富だ。

「花の精進揚げですか? よく水にさらして、薄く溶いた衣を、花の色が隠れないように少しつけて揚げるだけ。ちょっとしたコツをつかめば、そう難しいことでもありませんよ」と住職夫人の心強い言葉。そう聞くと、そうか・・・家でてんぷらを揚げる時に、花も使ってみるかという気になってくる。
そばの種を蒔いて芽を出させて「そばのモヤシ」を作り、ごま和えにして出して好評だったこともある。これもまた「ちょっとしたこだわり・工夫」なのだが、誰にでも出来る発想でもなさそう。

住職は。「料理のコツを尋ねられれば、すべてご説明しています。多くのお客様に知ってもらい。家庭の食卓でも楽しんでもらう。本来、寺の料理は『行に励む』すなわち精進する人のためのものですが、家庭に置き換えれば、仕事や学業に一生懸命の家族に出す食事も。素材こそ違うとはいえ『精進料理』の精神抜きには語れないのでは。そのヒントをお教えするのも、寺の大切な役目ですとも語る。

「家庭料理も広い意昧での精進料理」当然と言えば当然の考えながら、改めてそう言われると、当節そんな感覚がどこかに置き忘れられている気がしないでもないので、ちょっと寂しくなってしまう。

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