特別企画

法飯(善光寺・兄部坊)

法飯 「こ、これはうまい……」無作法だが声をあげずにはいられなかった。「牛に引かれて……」の長野・善光寺に39坊ある宿坊の一つの兄部坊で、料理の締めくくりに出てきた「法飯」は、それほど強烈な味だった。一見したところ、上品なお茶漬けといった感じでしなかったのだが。


この法飯、碗に盛ったご飯の上に、カヤの実・切りごま・セリ・おろし大根・ユズ皮を並べ、熱いダシ汁をかけて食べる。このダシ汁は前の晩からシイタケ・大豆・コンブを水につけてご一晩がかりでとったもの。これにわずかな塩としよう油、それに凍み豆腐を切り入れてひと煮たちさせる。
「ご飯に並べる5品は仏様へのお供え物。お供えの品を食べることで願い事がかない、すべての仏徳を得ることにつながるという考えからのものです。仏教の『五』は単なる数字にとどまらず、『すべて』とか『オールマイティー』という意味合いがありますから」鈴木紀元執事のこんな説明とともに、箸をつける。

最初の一口で「5品の持ち味とダシ汁がこれほどあざやかにかみ合うものか」という衝撃が背中を走った。オーバーな表現だと笑われそうだが、実際に食べてみれば納得してもらえると思う。5品ともそれぞれ個性の強い味なのだが、それをシイタケ・大豆・コンブのうま味が丸く調和させている。その意味で、私が得た衝撃は、ダシ汁の手柄なのだろう。
それまで何品もの料理を食べた後であるにもかかわらず、お代わりし、さらにその茶碗でダシ汁だけ2杯も余計に飲んでしまったほど。ダシヘのこだわりは並々ならぬものがあり、善光の開基・本田善光の子孫である若麻績千冬住職のお母様の光さんも、「コンブや大豆などはじっくり水出ししないと、あの味が出ないのです。また野菜の切れ端にしても、捨てることなく大鍋で煮てダシをとり、いろいろな料理に生かしています」

「蓮饅のみぞれ汁碗」の蓮饅は、すりおろしたレンコンを練って延ばし、シイタケ・ニンジン・ごま・ふき味噌などをくるんだ饅頭。これにすりおろした長イモとわずかに塩を加えた熱い薄葛あんをかける。味噌の味と野菜の歯応えがいい。汁をすすってみると、一瞬「あれ、味がないのかな」と戸惑うのだが、すぐになんとも言えないうま味が口全体に広がる。」このあたりも、ダシがしっかりとれているからなのだろう。

ゆばの上にすった豆腐を広げて揚げた「うなぎゆば」は、細いノリが“かば焼きの焦げ目”を演出。自家製の生麩を、しょう油・酒・ショウガ・粉ザンショウで半日煮込んだ「越のしぐれ煮」は、紛れもなく牛肉のしぐれ煮の風味。
ボタンの花に似たユリ根をその形のまま煮込んだふくめ煮は、華やかな雰囲気作りに一役買っている。

善光寺 「これも自信の品です。食べてみて下さい」と勧めてくれた豆腐の味噌漬けは、なんと2年以上も漬け込んだもの。手作り果実酒も豊富で、ユスラウメ・アケビ・ムラサキシキブ・桑の実と、様々な素材を使い何年もかけてまろやかな味に仕上げている。「『精進』の名に恥じないよう、丹精込めて作らせていただいています。ですから訪れる方にも一生懸命味わっていただきたいのです」鈴木執事がこんな言い方をした。改まってそう言われなくても、食べる側としては自然に真剣な面持ちになってしまう。そんな迫力を持った料理だ。

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