葬送ルネサンス

第四話 変革を阻害する要因

1. 日本人が好きな「皆さんとご一緒に」

今、葬祭業界が「変わらなければならない」と感じていることは確かであり、「変わろう」と努力していることも事実である。しかしそうした中でその「変革を阻害する要因」があることも、また明白である。その「阻害する要因」を、外的要因=「日本人の意識」と内的要因=「葬儀業界側の課題」に分けて検討した上で、それを乗り越えていくために必要なものを皆様と一緒に考えていこうというのが、今回のテーマである。

それぞれの国の国民性を端的に表現しているものとして、各国で作られたブラックジョークには秀作が多いが、筆者が覚えているものの中にこのような作品がある。
様々な国の人々が乗った豪華客船が大西洋上で暴風雨に遭い難破して、人々は救命ボートで脱出しようとする。しかし、救命ボートに乗れる人数に限りがあり、最後の一人を女性に譲るかどうかという時に、その男性にどう言えば納得するかというジョークだったと記憶している。曰く、イギリス人には「貴方はジェントルマンではありませんか」、ドイツ人には「これは法律で決められています」など、それぞれの国民性をブラックユーモアに包んで表しているのだが、日本人にはこういうと効果的だそうである。「皆さん、そうしていらっしゃいますよ」。筆者も苦笑しながら、これには密かに拍手を送るしかなかった。

「できる限り、人と同じにしたい」は日本人の国民性の中でも際立つ特性であり、国際化社会ではなかなか理解されない部分ではないだろうか。衣・食・住すべてに渡って無意識のうちに日本人に染み込んでいるこの「横並びの論理」は、葬儀にも色濃く反映されているように思う。葬儀関係者に聞いても、葬儀を「どうしたい」という要望の前に「普通はどうするのか?」という質問が先にくるケースが多いと言う。

では、多くの人々が「普通・一般的」と思っている(思い込んでいる?)葬儀様式は、いつ頃から確立したものなのだろうか?その歴史をたどっていくと、聖徳太子の時代から続く日本人の宗教観にまで遡るが、この部分は「無宗教葬をどう考えるか?」というテーマで、改めて詳しく述べたいと思う。今回は葬儀のシステムの部分だけを取り上げるが、多くの日本人が「仏教の教えに則って行われている」と疑いもなく思っているものが、実は様々な思想・宗教の融合によって成立している。地域や思想など複雑な歴史の変遷を経て葬儀様式が今日に至っていることは明白である。その由来は後世になって様々な要因により付け加えられたものも多く、それが日本人特有の「皆さんとご一緒に」という考え方の中で、もはや不動のものとして定着し、受け継がれてきたのである。

「葬式仏教」という言葉に代表されるように、日本人の大部分が葬儀に用いる仏式の葬儀様式を考えてみても、その形が一般化するのは江戸時代に入ってからである。江戸幕府は中央集権を確立し、その権力を維持するために様々な政策を実行した。その中で、一向一揆など宗教と庶民が結びつくことによって起こる権力への抵抗を押えるために行ったのが「本山末寺制度」などに代表される宗教統制であり、その見返りとして寺院に経済的基盤と俗界の支配機関としての権利を認めたのが、17世紀後半に強化された「寺請制度」である。この制度により、庶民はその生涯を檀那寺によって管理されることになり、それを通じて幕府の描いた支配体制が確立したと言えるだろう。

その中で、それまで貴族や武士、富裕階級などでしか行われなかった葬儀を、一般庶民にも行うように奨励する「五条目宗門檀那請合之掟」が発布される。これには「引導」「戒名」「各種法事」「先祖供養」など、今日の葬儀様式に大きな影響を与えた様々な内容が記載されている。後世の研究では、寺院側が自分たちの都合によって作った偽文書だという説もある。
葬儀の中で多くの人が「わかりにくい」「お金がかかる」と感じている部分の多くは、この「五条目宗門檀那請合之掟」の記載内容に起因していることも注目すべきではないだろうか。いずれにせよ、今日まで続く仏式の葬儀の源流は、仏教の本義に基づく形を庶民が自由意志で選んだというよりも、江戸幕府の宗教政策とそれを巧みに利用した寺院によって、半ば強制的に執り行われるようになったという方が正しいようである。

近年、この葬儀様式に疑問を感じて新たな葬儀様式を模索し、実際に従来の形式と違った「自分らしい葬儀」を執り行う人が増えてきていることは、これまでに紹介してきたとおりである。そこには従来の日本人の特性である「皆さんとご一緒に」ではなく、「みんなと違った自分らしさ」を求める現代人のライフスタイルが色濃く反映されており、日本人の意識の変化が垣間見られるように思う。この変化に、葬儀業界がどう反応し、何を提案できるかに、今後の葬儀業界の進むべき道が見えてくると筆者は確信している。そして、それができるかどうかのカギが「葬儀業界側の課題」に対する答えなのである

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