葬送ルネサンス

第五話 葬儀ビジネスのサービス業としての特殊性

1. 特殊な状況下でのサービス提供

これまで、葬儀業というビジネスが置かれている現状を、「葬儀は何のために行うか?」、あるいは「お客様が葬儀に対して何を求めているか?」などの角度から分析し、述べてきた。そうした中から「葬儀業は遺族からの依頼により、喪主に代わって葬儀を執り行う代理業」であり、ビジネスの分類上ではサービス業に入ることが明確になったかと思う。しかし、この「サービス業」という分類に関しては、「どうもしっくりこない」と違和感を覚える方も多いのではないだろうか?
実はその違和感の中に、葬儀業の「ビジネスとしての特殊性」が秘められているのだ。ビジネスの特殊性というといかにも深遠な感じがするが、目に見える部分にもその特殊性は非常にわかりやすい形で現れている。

一般的に「サービス」と聞いて思い浮かべるものは何だろう?例えば様々な飲食店の従業員、あるいはホテルのフロント、または各種イベントのコンパニオンなどなど…。業種は違ってもそこに共通してあるもの、そのひとつに「笑顔」がある。サービス業に笑顔は不可欠であり、社員研修の最初に徹底されるのも笑顔の対応である。
そのサービス業の基本である笑顔が、同じサービス業でありながら葬儀業者にはほとんど必要とされない。むしろ場をわきまえない笑顔は、不謹慎という批判を受けかねない。その理由はどこにあるのか?それは葬儀業が提供するサービスが、「死」という人間の尊厳とそれを取り巻く「愛別離苦」(釈迦が説く『四苦八苦』の中のひとつで、愛するものと離別しなければならない苦しみ)の感情の中での作業だからである。このことをよく理解しておかないと、葬儀業におけるサービスの根本が違ったものになりかねない。

この特殊な感情(深い悲しみ、喪失感、虚脱感など)の中での作業という点が、葬儀業というビジネスに特殊性をもたらす第一の要因になっている。これに加えて、故人の死から葬儀までの「時間のなさ=準備期間の不足」と、人生に一度か二度しかない経験が突然やってくる「突発性」が、遺族を中心とした関係者に多大な影響を及ぼし、葬儀を取り巻く状況を非常に切迫した複雑なものにしているのである。
身近な肉親の死による精神的なダメージに加え、葬儀というこれまで経験したことのない儀式を執り行うことへの「不安」とそれを滞りなく済ませなければならないという「責任感」、さらにそれを準備するための時間不足…。それらが一度に遺族に襲いかかってくるのであるから、そのプレッシャーは計り知れないものがあり、場合によってはパニック状態に陥ることもあるだろう。
さらに一度でも遺族として葬儀を経験したことがある方ならおわかりのように、その中で決定しなければならないことが次々と出てくる。

通常、人間が物事を判断する場合に基準となるのは、これまでの経験とそれに基づく冷静な分析、さらに類似する事例との比較対照などであるが、こと葬儀に関する限り、それらの通常の判断基準はほとんど用を成さないことが多い。むしろ正常な判断を下すにはもっとも不適格な状況が、葬儀を取り巻く環境と言っても過言ではない。

この状況下で、葬儀を執り行う遺族=お客様が求めているものは何か?それは葬儀に関する不安をじっくり聞いてもらうことであり、わからないことを何でも気軽に相談できる「相手」である。葬儀業者、特に現場の担当者に求められているのは、まさにこの点である。その点を無視して、葬儀の価格やシステムをいくら説明しても、お客様には不安が残るばかりであり、それが最終的には葬儀全体への不満につながるケースも少なくない。
事実、葬儀に関する各種アンケート調査の結果を見ると、遺族が求めるサービスの内容として「事務的ではなく、人間的な温かみが感じられるサービス」「わからない点を尋ねやすい雰囲気」という声が多く聞かれ、さらに葬儀の運営に関しては「細かなところに臨機応変に対応してくれて、小回りが利く」という点があげられている。
これは葬儀に関して「わからない点が多すぎる」ことへの不満の裏返しであり、葬儀業というビジネスがいかに「コミュニケーション」を中心に成り立っているかという証明でもあるだろう。

皆様はよくご存知のことと思うが、葬儀には「物理的処理」「社会的処理」「精神的処理」という3つの要素が含まれている。中でも精神的処理は遺族の方々にとっては極めて大事なことである。
これは遺族・親族・関係者が故人の死を受け入れ、その悲しみから立ち上がるために必要な部分だからである。そして、この分野にはマニュアルにないきめ細かなサービスが多く求められ、その満足度が葬儀全体の成功に占める割合が高いことは、すでに様々なアンケート調査やデータからも明らかになってきている。

ページTOPへ